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臨床塾便り

講師からのお知らせ
06 /25 2020
臨床塾便り

こんにちは。臨床塾の髙橋です。この度は新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴う臨床塾開校中止において、ご理解とご協力をいただき誠にありがとうございました。
勉強の途中で中止にさせていただきました3月2回分の内容を、出来るだけ早い時期に、ご参加いただいていた先生方にお伝えしたい、また、4月のコースに申し込みをされて待機いただいている先生方と一緒に勉強したいと楽しみにしておりましたが、現在の社会情勢を鑑みますと、今までの様に、会場までお越しいただき実技練習を行うことは早計であるとの判断を致しました。そこで、新たな試みと致しまして、リモート版での臨床塾を開講させていただく事になりました。本来であれば、2時間枠で計6回のスケジュールになっておりましたが、リモート形式では、1時間枠で計17回の内容と、平常より5時間分長めのスケジュールを確保しております。また、ご参加いただいている先生方とのメールでの質疑応答を、これまで以上に充実させて対応するつもりでおります。リモート形式での実技提示は、私どもも初めてですので、いろいろとご迷惑をおかけするかとは思いますが、新たな試みにより多くの気づきも得られるのではないかと期待もしております。

 臨床塾は、座学ではなく実技を主体とした内容を提示させていただき、実際に受講していただいている先生方が、臨床で実践してその結果を検証・再考していく作業を繰り返してきました。多くの対象者に、より効果的な治療介入を行う為には、一つの実技であっても各々の対象者に合わせて調整していく能力が求められます。また、好ましい方向に変化し始めているのか、あるいは滞っているのか、逆に好ましくない方向にあるのかなど、対象者の身体に触れているセラピストの手で、対象者を見ているセラピストの目で…いや、セラピストの五感全てを駆使して感じとっていくスキルが必要になります。治療場面は、複雑な感情を持っている人と人とのやりとりを基盤としていますので、長いセラピスト人生では、失敗と成功を体験しながら、少しずつ効果的な実技を自分の身体に染み込ませていく様に会得していくのだと思っています。また、障害を抱えている対象者との関わりにおいては、時に心が折れてしまいそうな出来事もあるかと思います。そんな時には、先輩後輩関係なく、同じ立場にあるセラピストが身体に触れあい実技練習をして、悩みを分かち合える環境がある事で救われるのではないかと考えています。仲間と共有できる大切な環境が、臨床塾に、各研修会に、そして、何よりも各職場に早く戻って来る事を祈っております。
 
今回の新たな試みに向けて、講師・事務局一同、知恵をふり絞って臨機応変に対応させていただきますので、何卒よろしくお願い致します。

                              6月24日
                          臨床塾 塾長 髙橋
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臨床塾便り[自分の身体との対話は意外と難しい!]

講師からのお知らせ
06 /02 2020
こんにちは。臨床塾の髙橋です。

2週間前、治療に来られた二名の方から、新たな痛みの訴えが聞かれました。前回の治療時には、訴えのない部位だったので不思議に思い、理由をお尋ねしますと、お一人目の片麻痺の方は、TVで坐骨神経痛に効果があると紹介していた体操を行って、非麻痺側大腿部後面から腰背部周囲を痛めてしまったとの事。お二人目の変形性股関節症の方は、TVで外出自粛による筋力低下と認知機能の低下の問題を聞いて、不安に思い40分程歩いて痛めてしまったとの事。TVや雑誌からの情報に影響を受けて身体を動かし、新たに痛みを作ってしまう事は、今回のお二人だけに限りません。これまで関わらせていただいた患者さん達からも、今回の様なエピソードを伺ったことはけっこうありましたし、自分も同じ様な体験を数回は繰り返してきました。町を歩けば、身体の不調や痛みを取り除くと謳い、様々な施術を売りにしているお店が多いのを見ても、自分の身体であっても、しっかりと対話して好ましい方向に調整する事の難しさを物語っている様に思います。

片麻痺の患者さん達に、自宅で出来る体操や自主トレについて指導する事は、セラピストの介入のひとつになります。私も経験年数が浅かった時には、機能維持や機能向上につなげる為のプログラムをいろいろと試行錯誤しては、片麻痺の患者さんにお配りしておりました。しかし、患者さんと情報交換していくうちに、身体状況を好ましくない方向に調整してもルーティーンに課題を黙々と継続して頑張っている方、日々の生活を実践していくのが精いっぱいで何もしていない方と、非常に極端な現状が確認されました。この差には、勿論その方の性格が反映されてはいるのですが、片麻痺の患者さんの抱えている障害の多様性も加味されているのではないかと感じています。2週間前のお二人の患者さんのエピソードを思い出していただけば良く理解できると思いますが、病気の再発や動けなくなることに対する不安は相当なものだと思います。また、セラピストが想像もしていない機能にまで片麻痺の障害は幅広く入り込んでおり、自立した生活を成立させていく事に多くの時間を追われてしまっていると解釈する事も出来るかと思います。

現在、外出自粛などにより、自宅で出来る体操や自主トレについて聞かれる度に、目の前の方には、どの様に身体と対話していただければよいものかと、いい年をして悩んでいる次第です。やり過ぎでもやらなさすぎでもダメ!難しいですね。

                 2020年6月2日 臨床塾塾長 髙橋

臨床塾便り「股関節のROM訓練の補足」

講師からのお知らせ
05 /20 2020
 こんにちは。臨床塾の髙橋です。前回は、本来の関節運動が可動域いっぱいに再現できる事は、それだけで非常に気持ちの良い感覚であることをお伝えさせていただきました。リハビリの介入中に患者さんから「気持ちいい!」とか「楽になった!」と言われるのは、やはりうれしいですよね。さて、今回は、片麻痺者の股関節のROM訓練について少しだけ補足させて下さい。

 片麻痺者の場合、姿勢の不安定性に対する過剰固定の代償戦略は、身体全体にあらわれますので、骨盤から股関節周りも筋緊張が高く、本来の股関節の運動性を失っている事が確認されます。麻痺側の股関節を観察してみると、麻痺側に回旋している骨盤に対して、股関節は外旋・屈曲・内転位にあり、他動的に麻痺側下肢を持ち上げると、股関節に動きが入らずに骨盤の回旋が先に起こる場合が多いので、まずは、その問題を考慮して下肢に介入する、つまり下肢から骨盤のコントロールを行いながら股関節のROM訓練を行う必要があります。患者さんの下肢の能力、治療で促通したい部分などに応じて、あえて末梢からのキーポイントで介入する事もありますが、下肢は非常に重く長いアームなので、出来るだけアームを最短にしてその重さをとり除いた方が、股関節に集約された運動感覚が提供されるのではないかという考えに、今のところはおさまっています。治療目標としては、外旋・屈曲・内転固定の解放、つまり内旋・伸展・外転方向の可動性の獲得になるのですが、あまり欲張らずに、股関節の臼蓋運動の変化を確実に感じとれる範囲から動きを誘導していく方がうまくいく様に感じています。何故なら、股関節周囲は、肩関節周囲と同じくらいに微妙に方向のずれている筋群が多数走行しているので、一部の強いストレッチになってしまうと、逆に筋緊張を高めてしまう失敗を何度も経験しているからです。

 セラピストは基本、サービス精神が旺盛なので、身体の中に抵抗感を感じると、どうしてもそれを敵の様にとらえてしまう傾向があるように感じています。変化していく部分を重視して、一回一回のROM訓練を丁寧に根気強く行う事が基本になるかと思いますが、皆さんはどの様に実施していますでしょうか。

                          2020年5月18日
                          臨床塾
                          塾長 髙橋

臨床塾便り「ROM訓練は気持ちがいい!」

講師からのお知らせ
05 /14 2020
 こんにちは。臨床塾の髙橋です。ここ数年は、リハビリの対象者が自分より年下という事が増えてきました。中には10代のお子さんもおられるので、人としての成長発達時期にあるが故、リハビリ中に率直な言葉を聞く事ができ、また、これが、活動の核心かと思う様な瞬間を目の当たりにする機会が増えています。その経験は、今まで自分が当たり前と考えていた事柄を、新鮮で興味深いものとして再認識する方向へと導いてくれています。

 ある日、そのお子さんの麻痺側股関節のROM訓練をしていた時、「ああ、気持ちいい!」と言われました。現在、私自身も加齢に伴う身体の運動制限を実感しているので、この言葉はすんなりと心に響いてきました。そうなんですよ。人の身体に備わっている本来の関節運動が再現できた時というのは、実に気持ちの良い感覚、心地の良い感覚が得られるのですよね!

 臨床塾では、「上肢機能」の3回目、「体幹機能」の5回目で、各々上下肢に対するROM訓練を再考しているのですが、提案している実技にインパクトがないと感じていました。今回、ラッキーにも「気持ちがいい。」と言われた時に私が何を意識していたか思い出してみました。この時、私は、筋緊張の亢進による可動域制限によりご自身では得られないであろう股関節の運動感覚を可能な限り明確に、そしてその範囲を広げていく方向にROM訓練を実施してみようと考えていました。麻痺側の股関節の随意性は比較的保たれていましたが、外旋・屈曲・内転傾向に固定されていたので、最初は、無理せずに外旋・屈曲方向に動かし、徐々にその範囲を広げていきました。それから、可能な範囲で股関節中間位へ、中間位から内旋位方向へ、最後は、股関節中間位での外転方向へと運動範囲を広げていきました。若くてしっかりした身体なので、非常に重量感がある為、年老いたセラピストは、片手を膝下に置き大腿の重みを軽減して、他手は股関節を触診して、その臼蓋運動を確認して可能な範囲で多様な運動感覚を提供していくと股関節周囲の筋緊張は自動調節される方向に変化していきました。少し演出をしないとリハビリには乗ってくれないお子さんなので、運動方向の切り換え時には、セラピストの動きを少し極端に演出していたのですが、自分では作り出せない外転方向に股関節の動きが広がった時に「ああ、気持ちいい!」と叫んでくれたのでした。

 臨床塾の中で、ROM訓練を再考していて、片手を膝、もう一方の手を足部において股関節の動きを誘導していく時に、「遠位部を持っていると股関節の臼蓋運動をイマイチとらえきれない。」と相談されることがあります。その時には、「片手を膝下に置いて、もう一方の手で股関節を触診してその感触をとらえ、慣れてきたら手をより遠位部に移動して練習したらいいのでは?」という事で、一緒に練習をしているのですが、学生時代から学んできたはずのROM訓練ひとつでも「治療に結び付く様に感覚的に手技をとらえていく。」事は、今更ながら簡単ではないと実感しています。

 今年は、新型コロナウイルスの問題で、臨床実習を受けられない状況が生じていると耳にしますが、リハビリ業界においても様々な影響が最小限にとどまってくれればと願っています。


                                                                    2020年5月14日
                                                                    臨床塾塾長 髙橋

臨床塾便り「リハビリ継続について」

講師からのお知らせ
05 /12 2020
 こんにちは。臨床塾の髙橋です。私は、東京リハビリテーションサービスの多くの方々の支援を受けながら、実技中心の内容を重視した臨床塾の他に、自費診療によるリハビリテーションサービスの提供をさせていただいております。ご本人とご家族のご要望には、まだまだ十分に応えられてはおりませんが、どんな障害を抱えていても、どんなに発症からの年数が経っていたとしても、人間が回復していく、あるいは適応学習していくすばらしい瞬間を目の当たりにすることは多くあります。

 つい先日も、次のようなうれしい事がありました。四肢麻痺で数年間寝たきりの方なのですが、リハビリテーションを継続してきたお陰で、比較的機能が残存している右手のリーチ範囲が広がり、自分の身体のかゆいところに手が届く様になってきているのです。失調の要素がある為に、力の加減が難しく傷跡を作ってしまう事も多いのですが、それを目撃したご家族は大喜びです。ご家族が喜んでいる時のご本人の表情は、確実に“どや顔”になっておりました。
 また、片麻痺になって若干の鬱傾向を示していた左片麻痺者が、リハビリテーションの中で、ご自身の左手の随意性を感じた事で、久しぶりに力強い言葉を発して帰っていかれました。

 本当に私個人としては、まだまだ役不足なのですが、ご本人とご家族が望むだけのリハビリテーションが継続出来る環境が整ってくることを願っております。特に、中枢神経損傷に伴う後遺症を抱えておられる方の心身の回復には、正直時間がかかります。慌ててとり繕った代償活動は、次への回復の機会を閉ざし、二次障害や三次障害の経過を招いてしまう危険をはらんでいます。突然わが身に起こった障害の回復を可能な限り図り、そして、環境や課題と折り合いをつけながら適応させていく術を、じっくり身につけていける、そんな環境が普通になる事を夢みております。

 5月9日は、先輩であり友人の命日でした。そして、本日、山梨で大変お世話になった大先輩の訃報を聞きました。二人から学んだ多くの事を思い出しながら、今一度自分に何が出来るのか考えたいと思います。
 
                                                                    2020年5月11日
                                                                      臨床塾 塾長
                                                                            髙橋

臨床塾便り「痛みについて」

講師からのお知らせ
05 /08 2020
 こんにちは。臨床塾の髙橋です。
 50歳を過ぎたあたりから、肩や腰や膝などを痛めては自分でいろいろとリハビリを試してきましたが、今年1月からの膝の痛みには難儀しております。セラピー中の同一姿勢が維持出来ず、また、姿勢を変える時に出現する痛みに思わず声をあげてしまい、情けない事に患者さんに心配されている始末でした。そんな話を今年3月に米寿を迎えた母に話すと、「これから、もっといろいろと痛くなるよ。あたしくらいの年になったら、痛いとこだらけで訳が分からなくなるよ。」と仰せられました。「げげっ‥!もっと痛くなる!それに何も言わずに耐えているあなたは何ものだ。」と思ってしまいました。自分の母親ながら、「すごいなぁ!」と尊敬してしまいます。5月10日は母の日。帰省したくても新型コロナの問題による外出自粛で帰省出来ない今年は、いつもより母の偉大さを実感します。

 どこかに痛みがあるという事は不快で不安で不便です。安静時からの痛みは、動きを阻害し気持ちを後ろ向きにさせます。痛みをかばった動きは、痛みのある部位だけでなく周囲の身体の動きも制限してしまいます。どんな疾患でも、痛みを少しでも軽減していく事はリハビリの重要な目標になります。脳卒中による成人片麻痺者では、肩周囲に痛みを感じている方が少なくありません。脳卒中発症時から痛みを伴うというよりは、リハビリが進められ次第に活動量が多くなる時期から出現する事が多いので、痛みの原因の一つとして、痙縮や連合反応などの高緊張が関連している事が考えられます。また、セラピストが不用意にROMを実施したり、可動域制限を感じた時に痛みを訴えられる事も少なくないので、運動麻痺による不動に伴う拘縮で、肩複合体の協調的な運動性が低下する事によるストレッチ痛やインピンジメント症候群も考えられます。また、突然痛みが強くなった場合のエピソードなどを確認しますと、運動麻痺や感覚障害、無視傾向などによる麻痺側管理能力の低下に伴う肩周囲の損傷や強引な他動的操作や介助による損傷も忘れてはないない原因になります。酷い痛み以外の訴えとしては、肩周囲全体、三角筋粗面周囲、肩峰周囲、烏口突起周囲、首から肩のライン、腋窩後壁、前胸部などと広い領域にわたっている事が多いのですが、これらの訴えの背景には、高い運動性を保証する為に、不安定な懸垂関節(体重の約6.5%)が多くの靭帯や筋群により調節されている肩周囲の構造上の特徴が見事に反映されていると思います。ですから、治療としては、不安定な不適合関節である肩周囲の安定した位置関係を修正し、筋群や靭帯の柔軟性をとりもどし、本来の筋活動を促して運動性を拡大していく関わりは外せない介入になってきます。

 臨床塾では、肩周囲に対する実技として、最初に肩甲骨の可動性を改善する方法を幾つか提案させていただいているのですが、臨床塾に来られていた多くのセラピストが勘違いをしていた事がひとつありました。片麻痺者の肩甲骨は胸郭に対して、挙上外転位にある場合が多いので、治療介入目的としては、下制内転位への修正を目指したいのですが、どうしたわけか肩甲骨を動かしていく時には、胸郭に対して肩甲骨を外転方向に引き出す操作を強調してしまう傾向がありました。肩甲骨が丸みをおびた胸郭上で移動する事を意識しすぎる為なのか、あるいは片麻痺者の肩甲骨が若干ウィングしている事を気にしてなのか理由は良くわからないのですが、どうしても外側に引き出す操作が勝ってしまい、不安定な介入になってしまうのです。片麻痺者に対する不安定感というのは、姿勢の固定を強める事につながるので、これを臨床で実施したら、頭頚部を含めた体幹や非麻痺側上下肢は一塊となってしまいます。肩甲骨を動かしていく時に、最も失敗が少ないと今のところ考えているのは、可能な範囲で胸郭に接触させた中で挙上と下制の動きを繰り返していく方法なのですが、皆さんはどう感じておりますか?

                                                                         5月7日
                                                                     臨床塾塾長 髙橋

臨床塾便り 「麻痺側上肢の誘導」

講師からのお知らせ
04 /29 2020
 こんにちは。臨床塾の髙橋です。今まで、片麻痺者ご本人とそのご家族の方々から「麻痺を治してほしい。」「手を治してほしい。」「元通りにしてほしい。」と言われたことは数えきれません。ご希望に添えるような、神様のような力があれば、多くの片麻痺者、いや病気で苦しんでいる全ての人達は本当に救われるだろうと思いながら、目の前にいる片麻痺者の身体に触れてきました。私達セラピストに出来る事は、「少しでも改善してほしい。」という気持ちを込めて、その方の潜在的な能力を見出していくべく地道に治療を進めていくだけ。「あきらめないで頑張りましょう。」という気持ちをこめて汗を流すだけ。今まで、片麻痺者がご自身の麻痺を嘆く状況をみて、せつない気持ちとともに確信してきたセラピストの出来る事…。尊敬している先生が、臨床で起こっている事を真摯に受け止め、焦る様に前進して来た意味が、少しだけわかった様な気になっている今日この頃です。

 さて、気をとりなおして、今回は、麻痺側上肢の誘導について再考したいと思います。操作する道具を何にするのか、Activityをどう選ぶのか、セラピストがどう位置して何を演出するのか、とても重要な内容になりますが、今回は、ベッドボトルの握り離しを想定した麻痺側上肢の誘導のみをとりあげたいと思います。

 一般的には、麻痺側上肢の誘導の仕方には二通りあるかと思います。一つは、麻痺側上腕の外側上顆と内側上顆のあたりにセラピストの片手を添え、リーチ動作のみを誘導して、手指の反応を片麻痺者に委ねていく方法。これは、ペグや積み木など、比較的つまみ動作の時に応用しやすい誘導方法かと考えています。もう一つは、セラピストの片腕を片麻痺者の麻痺側上肢の肘内側に回し手指を母指球に添え、他方の手を母指以外の4指に添えて、リーチ動作と手指操作を同時に誘導する方法。これは、今回の想定したベッドボトルの様に、出来るだけ手のひら全体を物品に接触させた手掌把握の効果を期待した誘導方法かと考えています。片麻痺者の随意性や治療の目的に応じて、二つの介入を使い分けていきますが、2つめの介入では、セラピストが過介助にならない様に留意する必要があります。元来、手は探索機能に優れ、物品にまとわりつく様にフィットしていく身体部位ですから、その機能に期待して関わる心づもりが重要です。二つ目の方法で麻痺側上肢を誘導していく時、物品から手を放していくリリース時に、セラピストが片麻痺者の麻痺手の指を、思いきり伸展させている場面などは、よく見かける過介助の代表かと思います。臨床塾で、塾生さんに確認した時には、この介入をしておられた方が意外と多かった事を記憶しています。

 リーチ動作の誘導開始時には、体側に上腕を下ろし、物品の特性に応じた手の構え、ここではベッドボトルを把持しやすい様な構えを準備します。その状態から、肩関節の屈曲を伴う上腕の移送と、肘関節の伸展を伴うリーチ動作を誘導していきます。物品へのリーチ動作は、全身の接近を背景としますので、誘導が上手くいけば、下肢の踏み込みを伴うので、セラピストは自分の下肢を、片麻痺者の麻痺側下肢に添えて、その支持性の有無を確認していきます。次に物体の把持ですが、可能な限り手掌全体でベッドボトルを把持する様に、特に尺側がフィットする様な接触を誘導していきます。片麻痺者本人には、ベッドボトルが手の中にある感じの有無を確認して、手指の随意性があれば把持に協力してもらいます。もし、手の中にあるベッドボトルが感じとりにくい状態であれば、セラピストが、麻痺側手関節や手指の背側から、手掌や指腹の接触の圧を明確にして、手の中に収まっているベッドボトルに注目しやすい様に試みていきます。その時に、上肢全体の滞空の潜在性が評価できるのですが、自分の手で把握しているベッドボトルに片麻痺者が注目している時には、無意識下で滞空している場合が多いのですが、ベッドボトルとの関係性を無視して、単に上肢を動かそうとしている時には、中枢部の緊張が高まりやすい様です。最後に、リリースですが、片麻痺者の多くは、体幹での引き込みの代償で対応してくるので、少なくてもリリースの時には、物体へのリーチを維持した中で物体から手指が外れていく方向に協力してもらう必要があります。

 ペッドボトルの握り離しを繰り返していくといった一見単純に見える場面でも、実は、片麻痺者とセラピストの共同作業であり、一回ごとに異なった動きになっています。上手くいったりいかなかったり、集中したり注意が他に向いたり、その課題でしか感じられない心地よい感覚に気が付いたり見失ったり。いつも変動している中で、片麻痺者が課題と環境に働きかけていく体験を通じて、少しずつ適応した活動を見出していく工程は、やはりセラピストにしか出来ない、セラピストにしか見守れない支援だと信じたいなぁ‥。片麻痺者のご希望に添えるには、まだまだ力不足の部分が多いわけですが、医師でもない、看護師でもない、介護士でもない、セラピストにしか出来ない事を信じていきたいと考えています。

                                                                           4月27日
                                                                     臨床塾塾長 髙橋 

臨床塾便り

講師からのお知らせ
04 /21 2020
こんにちは。臨床塾の髙橋です。通勤時に通るお寺さんの門に、「未来とは、今である。」というメッセージが貼ってありました。様々な不安の中で辛抱している今だからこそ、心に沁みてくるメッセージです。

 さて、今回は、臨床塾Aコース「上肢機能」5回目で提示させていただいている、麻痺側上肢の誘導について少し考えたいと思います。
運動麻痺や感覚障害を伴った麻痺側上肢を、どう動かせばよいのか困惑している片麻痺者と共に、セラピストが様々なActivityの中で好ましい適応反応へと誘導していく事は容易な事ではありません。多くの片麻痺者では、道具を目の前にした時から、非麻痺側体幹での強い捻じりこみを伴った屈曲固定による代償や股関節の屈曲固定と体幹背面筋の緊張を高める代償など、とにかく全身を駆使して身構えを強めてしまいます。その為、麻痺側上肢は、誘導下であっても、中枢での固定に基づいてクレーンの様に持ち上げてしまうので、視覚的にも体性感覚的にも対象に接近していくリーチからは程遠くなってしまいます。本来の上肢を移送させていくリーチ動作であれば、手の尺側が操作対象にフィットして把持の安定を保障し、橈側は、十分な操作性を機能させる状態になるのですが、片麻痺者の代償的なリーチ動作では、橈側優位の把持になり操作する対象からの情報を探索しにくい状態に陥ってしまいます。その様な状況が続くと、セラピストは、麻痺側上肢の痙縮の亢進、そして、パターン化された動作を感じます。必死になり過ぎて、逆に学習の場を見失う傾向にある片麻痺者に対して、その意欲を減退させずにどう声掛けをして、どう介入していけば好ましい適応反応を導き出せるのか。どの反応をなだめて、どの反応を良しと判断して成功体験を増やしていけるのか。上肢を誘導していく工程には、①視覚的な対象把握②リーチ動作③対象操作が含まれ、各々で①身構えの強さが軽減し対象に接近出来る様に②上肢が体幹から分離して肘の動きと協調されたリーチになる様に③尺側が少しでも対象にフィットする様になどなど、セラピストが片麻痺者と共に精査していくべき内容が連続しています。誘導の間でセラピストが、片麻痺者に協力してほしい部分を口頭指示しますが、それが、逆に片麻痺者の意識的で努力的な反応を助長してしまう場合もあります。しかし、これも感情を持った人間の避けられない反応のひとつでもありますので、おおらかな気持ちで、次に発する言葉を選び、そのタイミングを見計らっていきます。治療介入の中で、期待したい適応反応は多くあるのですが、麻痺側上肢が軽く柔らかくなり、分離した運動感覚を再現しやすくなるなどの効果が、最も多く得られる変化の様に思います。得られた効果を片麻痺者が感じてくれた時には、「セラピストで良かった。」と喜びを感じるのですが、そうでない時も多々あるのも現実。
片麻痺者の出来ない事をお手伝いする介助とは違い、課題に対する心身の反応をとらえ続けていく誘導という介入は、専門職であるセラピストにしか出来ない技術ではないかと、私は思っているのですが、皆さんはどの様に考えますか。
片麻痺者の潜在性を上手く引き出すための技術を身につけていくには、とにかく場数を踏む、正常人同士で練習する以外ないのですが、残念ながら、今は練習が出来ない状況ですので、場数を踏んで検討していくしかないという事になりますね。トホホ。
麻痺側上肢の具体的な誘導に関しては、臨床塾でいろいろとり上げていくのですが、最後に、私が20代のころに先輩に言われた一言で、今回はしめたいと思います。
「誘導する時は、患者さんの手を自分の手だと思って誘導しろ!」

                         4月20日 臨床塾塾長 髙橋

臨床塾便り

講師からのお知らせ
04 /15 2020
臨床塾の髙橋です。先週の青く澄み渡った空や、神秘的なスーパームーンに心を癒されています。今でも信じられないのですか、先日、新型コロナウイルスに感染して亡くなられた志村けんさんの「いいよなおじさん」を真似て、「やっぱり青空はいいよなぁ。気持ちがいいよなぁ!」「やっぱり月はいいよなぁ。癒されるよなぁ!」と、ポジィティブになる独り言をつぶやいては自分を励ましています。それにしても、志村けんさんがあんな形で、お亡くなりになるなんて‥本当にショックで残念です。ご冥福をお祈りいたします。

 さて、今回は、時節柄、手洗いやアルコール消毒の機会が多いので、健常者である私がこれらの活動で改めて感じた事をまとめたいと思います。医療従事者にとっての手指衛生は、院内で毎年繰り返されて指導される必須内容なのですが、新型コロナウイルスの感染が蔓延する前の手指消毒は、正直不十分だったと反省しています。以前の手指衛生は、知識と実践に大きなギャップがあり、怒られてしまうかもしれませんが、時間に追われて手順を省略し形だけになっていた様に思います。それに比べて、今現在実施している手指消毒は、手のひら、手の甲、親指、指と指の間、指先と爪の間、手首と、両手の隅々から見えない敵である新型コロナウイルス他様々な雑菌を取り除く様なイメージを明確にもった手洗いになっています。また、アルコールでの手指衛生も、しっかり殺菌する様に手に刷り込む様にしています。この時には、知らず知らずのうちに、かなりしつこく密着して自身の手に触れているのを感じます。私の場合は、年のせいで身体のあちこちが硬く凝り感もあるので、手指衛生の中でも、「痛気持ちいい」くらいに強めに手をもみ合わせ、指と指を絡めたりもしてしまいます。これらの基本的な両手の交互協調動作に、石鹸や流水の感覚がリンクしている時には、綺麗になった心地良さだけではなく、自身の身体に触れる事での安堵感に似た心地良さも感じます。
 
最近は、ほぼ毎日、片麻痺者の手洗いやアルコールでの手指消毒の場面を観察するのですが、活動が進むにつれ、麻痺側上肢は連合反応が強まり後退し、そして、手指は硬く閉じてしまい、非麻痺側による麻痺側のとりあつかいは難しい状態に陥ってしまいます。十分な手指衛生が困難な背景としては、麻痺側上肢の随意性の低下も関連しているのでしょうが、Brs4~5レベルの場合でも同じ状況に陥ってしまい、しつこく、麻痺手で非麻痺手に触れられないばかりか、非麻痺手で麻痺手に触れ続けられない場面は少なくありません。片麻痺者の目的活動で最優先される代償的で固定的な定型的姿勢の強固さと、手指衛生の知覚情報より動作が先行してしまう為に、逆に手指衛生の目的が達成されていない危険性に、今はハラハラした気持ちを抱いてしまいます。
 「手洗い」に関しては、「しごく」要素が重要な知覚的情報であり、問題解決につながる糸口であると柏木正好先生が強調され、私も仲間と一緒に、環境適応講習会という講習会で、何度も提案させていただきました。しかし、今回、身をもって知識と動作が容易に解離してしまう時(以前の手洗い)と一致する時(現在の手洗い)の大きな違いを顧み、また、「しごく」感覚とそこで得られる心地よさを実感しているので、片麻痺者の手洗いを徹底的に見直して介入し、結果的に麻痺手の取り扱いの向上と、感染リスクの低下に結び付く様に関わりたいと思っています。
 それにしても、人の活動の本質を分析してきた柏木先生は、やはり心より尊敬しますね。

4月15日 臨床塾 髙橋

臨床塾だより

講師からのお知らせ
04 /06 2020
臨床塾便り

 こんにちは。臨床塾の髙橋です。新型コロナウイルスの感染者が増加の一途を辿り、先の見えない不安な日々が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は、臨床塾のみではなく、土日に参加予定していた研修会が全て中止となりましたので、時間を持て余しております。時間があると余計な事を考えてしまうのが人間かと思うのですが、こんな不安定な状況ですから、尚更、ネガティブな思考に進んでしまうので、今しか出来ない事を探しています。しかし、ついつい、治療や講習会につながる内容に立ち戻ってしまいます。良いのか悪いのかは別として、自分の人生において、仕事が占めていた割合の多さを改めて実感しています。その割には、セラピストとしても人としても、まだまだ未熟ですが…トホホ。
とにかく、しばらくは続くであろう不安な状況を、少しでもポジィティブ思考で過ごしたいと思っています。
さて、前回は、臨床塾Bコース「体幹機能」第4回目で提示している胸郭周辺に対する実技を紹介させていただきましたが、試された方はいかがでしたでしょうか。今回は、前回紹介させていただきました「皮膚の滑走性」という事について少し補足させて下さい。  私は、環境適応講習会の代表である柏木正好先生に、皮膚反応が運動制御に大いに貢献している事の興味深さを教えていただきました。柏木先生は、片麻痺者に対するセラピストの接触の仕方の違いに、皮膚は敏感に反応しているとし、そのひとつは、「セラピストの接触している手が表面の移動ではなく、皮膚のその周辺部を動かす様に少し圧力を高めて動かしていくと、すぐさま皮膚は柔軟性を高めて接触面積を広げたり、変形したりして追随する」と表現しています。このご提案からヒントを得て、患者さんの皮膚の滑走性を引き出していきます。軽く手を触れたセラピストの手と、片麻痺者の身体部位がお互いに馴染み、一体化した感じを受けるまで少し待って、それから動かしていきます。最初は、セラピストの手が接触している片麻痺者の皮膚が直接動くのを感じるのですが、徐々に一部から周囲全体に動きが波及していく変化を感じとる事ができます。片麻痺者の皮膚は、身体の固定に伴って、パンと張ってサランラップ様になっていたり、循環が悪く冷たく紫色になっていたり、逆に関節や筋群の固定が強く皮膚がたるたるに分離している状態が観察されますから、胸郭周辺に限らず皮膚の滑走性を引き出していくアプローチを試していただければと思います。
この皮膚反応に着目していく多くの実技の背景には、常にオープンシステムで自身の周囲環境の変化をリサーチしている体制感覚系の繊細さや、感情を持ったセラピストが感情を持った片麻痺者にタッチしていくといった、治療者としてのあるべき態度に関する考察が含まれているのですが…詳しく知りたい方は、柏木先生の「環境適応」あるいは「柏塾ノート」を熟読される事お勧めします。  
4月6日  臨床塾塾長 髙橋